東京都中野区 Y様
『オーナーの想いが届く家 ストレスフリーな癒しのコミュニティハウスを目指して』
- 物件名
- アルデーラ中野
- 間取/世帯数
- 2LDK×7戸
- 完成/構造
- 2014年3月築/ALC造2階建
- 取材日
- 2014年6月
「無縁社会」という造語に代表される地域社会における人と人のつながりの薄れは、首都圏下でもますます進行しています。共同墓や保証人代行サービスも「無縁ビジネス」として業績を伸ばしたことは明らかです。少子高齢化による単身世帯の増加や住宅の高層化が進み、プライバシーを重視しながらも、一方で地域住民同士の助け合いや相互理解への参加姿勢は失われるべきではないと感じています。地域交流やご近所付き合いから遠ざかる風潮を食い止めるため、住宅提供者も積極的に警鐘を鳴らすべきです。
コミュニティの在り方を見直す動きとして住宅そのものをコミュニケーションの場に活用した高齢者専用住宅や若年単身者に向けたシェアハウスが新たなライフスタイルとして話題です。しかし医療面など建築に伴う条件規制や維持管理要素から投資として導入するには簡単ではありません。
そんな中、一般の賃貸住宅でも入居者同士でコミュニケーションを図りやすいよう、きっかけや共通意識が芽生える工夫を施した物件があります。入居者同士が孤立せず、退去後にも人のつながりを大切に懐かしく思い出してもらえる住宅に。そんなオーナーの想いの詰まった物件の全容と、コミュニティを培うに至るまでの経過をご紹介します。
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3月末、中野区野方に待望の新築アパートが完成しました。2LDKタイプが全8世帯、二階建て重層長屋のアパートです。西武新宿線沼袋駅から徒歩10分ですが、JR中央線中野駅を自転車利用できますので、都心ならではの2路線が見込める環境です。
建物完成前は内覧出来ないにもかかわらず、防犯力の強みと敷地の有効活用を効果的にアピールした外構の全貌が、多くの申込反響に繋がりました。
まずYオーナーのこだわりの一つに災害時の対策があります。今や太陽光パネルを搭載し共用電気代に充てる賃貸物件は多くみられるようになりましたが、こちらではさらに蓄電池を備えたことで停電時など一時的な電力供給も可能にしています。日常は防犯カメラのモニター室として利用される防災倉庫ですが、蓄電池のほか備蓄品も保存できる十分なスペースがあり、いざという時に入居者同士が助け合い活用して欲しい、賃貸にはなかなか見られない新しい取り組みです。
さらには部外者をシャットアウトする敷地作りがあります。郵便や宅配ボックスは配達人の投函口を外、受取口を内に配し、検針メーター等も全て敷地外に整え内部への訪問を不要としました。部外者のいない敷地内で子供だけで遊ばせても安心なプライベートスペースを確保したのです。南北に長い敷地の中野駅寄りにはカードキーをかざすだけで開錠するオートロック制御の自動スライドドアを採用し、自転車や傘で手がふさがっていても鍵穴に寄って差し込む手間を省いています。
一方で北側駐車場には引越しトラックも駐車できるゲストスペースを確保し、オートロック開錠延長可能な手動開閉型の門扉を設け、利便性と防犯性を兼ね備えました。
敷地の一角に設けられたのは、中野区という都心部には希少な農地です。8区画に分け1.5坪ほどの菜園スペースとして入居者に年間5千円で貸し出します。入居当初は菜園の借り手が居りませんでした。無理もありません。入居者の誰もが野菜を育てた経験が無く、何から手をつけたら良いかさえ分からなかったそうでした。しばらくして1世帯がYオーナーに相談を持ちかけたのを機に、オーナー主催の実践講座を告知するとなんと3世帯が苗を用意し参加しました。耕作道具も常にすべて無料で貸し出され、楽しむ姿はバルコニー越しに宣伝効果となり、今では5世帯が思い思いの野菜を育てています。
畑で野菜談義に花が咲くように、いつしかペットの話や子育ての話、趣味のバイクの話など、菜園という週末交流の場が出来たことで、入居者家族間にコミュニケーションが生まれたのは必然と言えるのではないでしょうか。きっかけや後押しさえあれば互いの心の障壁が取り除かれやすいように感じます。管理側にすれば入居者同士が気遣い合うことでトラブルリスクの軽減が図れ、互いの目を気にし合うことでマナー意識にも相乗効果が期待できるのです。
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遡ること、弊社との管理委託契約は2月、建築工程は内装工事に入っていました。当時現場を見せていただいた際のYオーナーはヘルメットに長靴という出で立ち。
聞けば前職は大手ゼネコンの出身で、時にハウスメーカーの現場監督に代わり指示を出される程何度も現場に足を運ばれ、理想の仕上がりを模索しておいででした。なぜそこまでされるのか。ここに実際に住む人にとってどうしたら一番自然であるか。つまり違和感なくストレスを感じにくい目隠しフェンスの高さ、物干しの位置、収納の広さ…等。仕様のどれを取っても妥協を許さない姿勢は、今回で5棟目となる経験の粋を集めたと言ってもいいのかもしれません。これまでのアパート経営で成し得なかった点を、今計画には色々反映させたかったのだといいます。
新築時より入居条件にペット飼育を加えた点もその一つです。「これまで入居者から要望の声はあったが、途中からペット可を採用するとなると入居者全員の許可を取らねばなるまい。皆がお互い様に同意していることが前提でないと。」 そして敷金を一か月分多く預かる現状にも思慮され、入居者の修繕費用負担が最小限で済むよう室内にはクロスの見切りを設け、下部には傷や臭い吸着に強いペット用クロスを採用して下さいました。結果、ペット飼育も募集反響は高く、6世帯がすでにペットと生活を共にしています。
朝夕の物件の見回りを日課にされているYオーナーは、入居者との心の距離関係も大切にされています。まれにゴミ出し等を直接指導されることがあっても、店子である入居者はわが子のように、新しい家族の誕生を共に祝ったり、日ごろの体調を気遣ったり…。Yオーナーの「時代とともに住宅設備や暮らしはデジタル化していくが、ここに実際に住むのは感情を持ったアナログな人間なのだから。私には投資と割り切る上辺だけの付き合いは(オーナーとして)性に合わない」と断言された後の笑顔を思い出します。安定的な経営は入居者の安心と満足から得られ、長期入居が賃料維持にも繋がるのだということを確認するように話してくださいました。
過去にYオーナーのアパートに住んでいた退去者が新たな引越し先で生活を始めたものの、それまで居たY邸の居心地のよさを顧みて改めて世話になったと連絡を寄越してくれた事や、Y邸アパートで誕生し巣立っていった元店子の幼子が、転居先に移ってからも「早く元のおうちに帰ろうよ」と駄々をこね、またオーナー宅へ遊びに来たいのだと便りをくれる、退去した後も入居者と良縁となっているエピソードは本当に尽きません。Yオーナーの住まいに込めた想いがちゃんと伝わっている証拠ではないでしょうか。
各住戸の玄関前には、Yオーナーと奥様の遊び心が垣間見られます。お酒で気持ちよく飲んで帰ってきても玄関扉の色とタイル模様が自分の部屋を判別してくれるようにと、8種類の異なる柄を選択されました。美しいデザインタイルの空間は入居者の美意識も高めるようで、各戸毎でお洒落な傘立てを設置するなど、生活を楽しんでいる様が伺え、管理するこちらも嬉しくなります。
菜園に植えられたメロンの苗が葉を広げているのを見ると、素人ながら収穫を期待している入居者の楽しみな想いが伝わってくるようで、Yオーナーと一緒に心の中でガッツポーズをしたことが印象に残っています。
(取材:東京本社アンサー事業部 清水 京子)
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