『相続土地国庫帰属法』の制定
今年の4月、「相続土地国庫帰属法」(正式名は、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」)という法律が成立しました。
相続手続きに関して、法改正や新法の制定が相次ぎ、登記の義務化などの制度が導入されています。今回はその中の1つである「相続土地国庫帰属法」についてお話します。
この法律の成立で、相続した土地を国に放棄することが可能となりました。
法律の公布(今年の4月28日)から2年以内に施行されることになっていますので、制度の利用が近い将来可能となる予定でいます。では、具体的にどのような手続きで相続した土地を国庫に帰属させるのでしょうか。
①法務局への承認申請
申請書等の提出と審査手数料の納付が必要です。
②審査
現地調査、関係者からの事実確認の聴取などが行われます。
③負担金の納付
審査の結果、国庫への帰属が承認された場合、負担金の納付を行います。
④国庫への帰属
負担金の納付が完了すると、土地の所有権は国庫に移転します。
ここまでのお話ですと、負担金を納付すれば比較的簡単に相続を望まない土地を国庫に帰属させることが可能であるようにも思えます。しかし実際には対象の土地について相当厳しい要件が付されています。具体的には次のような土地は、国庫への帰属が承認されません。
・建物が存在する土地
・担保権や用益権が設定されている土地
・境界不明など権利関係に争いがある土地
・管理をするのに過分の費用・労力を要する崖がある土地
・除去が必要な埋設物が地下に存在する土地
・土壌汚染がある土地
・隣地所有者と争訟をしなければ使用できない土地
・通路など他人によって使用されている土地
・車両、樹木、工作物などが地上に存在する土地
・上記の他、管理を行うのに過分の費用・労力を要する土地
国庫に帰属させることができるのは土地だけですので、建物が存在する場合、相続人が建物を解体し、更地にしておくことが前提条件となります。(解体した建物の滅失登記も必要となるでしょう。)法で
定めた要件はかなりハードルが高いものであることがわかります。国庫に帰属後、その土地は国有地の売却として売り出すことを想定していると思われます。より良い状態の土地として買い手が付きやすい条件で売り出したい、という意図が見て取れます。
相続登記の義務化同様、社会問題化した空き家問題や、所有者不明の土地の増加への対応策の1つとして、土地の国庫への帰属という制度が創設されたと言えるでしょう。
これまでは相続人が相続を希望しない場合、相続放棄を選択していました。ただし相続放棄は相続人が相続すべき全ての財産の相続を放棄することになります。相続財産の一部だけを放棄することはできません。今回成立した法律により、相続財産の一部の土地を、要件をクリアすることで国庫に帰属させることが可能となります。既にお話ししましたとおり、国庫へ帰属させることが出来る土地には厳しい要件が課されていますが、相続財産の処分方法の1つとして今後活用が見込まれることになるでしょう。
本店 運営推進部
岡野 明徳