『定期借家契約の実態』
通常の借家契約(普通借家契約)では、借主保護の観点から、借主が継続して居住することを希望する場合には、貸主から解約や契約更新の拒絶は、正当な事由がない限りできません。このため、借家にせずに空き家のままにするなど、住宅の有効活用で出来ない実態が過去にありました。そこで2000年に「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特措法」の中で、定期借家権が導入され、一定の契約期間に達したら契約が終了する定期借家契約制度が誕生しました。
先日、定期借家推進協議会が、この定期借家契約について入居者・宅建業者を対象としたアンケート(今年の1~2月に実施)の結果を公表しました。導入から20年を過ぎた定期借家契約の実態がよくわかる結果内容となっています。
<宅建業者へのアンケート>
【1】これまでに定期借家契約を締結した実績はありますか?
・実績があり、数も増加傾向 10.8%
・実績があり、数は横ばい傾向 26.4%
・実績はあるが、数は減少傾向 25.9%
・ない 36.8%
【2】定期借家契約締結の実績が減少傾向または活用しない理由として、あてはまるものをすべて選択してください。(【1】で実績はあるが、数は減少傾向または、ないと回答した業者を対象に。)
・契約締結等の手続き煩雑で、使い勝手が悪いため 38.2%
・借主にとってのメリットが乏しく、空き家になる可能性があるため 37.8%
・普通借家契約に特段の不都合はなく、定期借家制度を活用する必要性を感じないため 52.2%
・制度が複雑で、正確に理解する(貸主に理解させる)のが難しいため
22.9%
・定期借家契約では、普通借家契約より家賃や一時金を減額せざるを得ないため
18.5%
・定期借家契約でも期間満了後に退去しない借主がおり、明け渡しが大変なため
12.4%
【3】 どのような場合に定期借家制度を活用、または活用できる(貸主に提案できる)とお考えですか?
・建て替えの予定にあわせるとき 70.3%
・大規模修繕の予定とあわせるとき 27.0%
・リロケーション物件のとき 17.9%
・マンスリー物件で運用するとき 13.9%
・入居者の生活態度に問題がある(あるだろう)と判断したとき 25.4%
【4】 管理する物件のうち、契約形態が定期借家契約である管理戸数の割合を教えてください。(平均値)
・シングル向け 14.6% ファミリー向け 15.4%
【5】契約期間が満了となった定期借家契約のうち、同一の借主と再契約した割合(%)はどのくらいですか?
平均 47.5%
【6】 定期借家契約の再契約の際に徴収する再契約料、契約事務手数料は、普通借家契約(同条件の物件)の更新料、更新事務手数料と比べてどのように設定されていますか?
・再契約の際に徴収する金銭の方が高い 5.6%
・再契約の際に徴収する金銭の方が安い 15.9%
・同程度である 53.4%
・物件によって異なり、どちらともいえない 25.1%
<入居者へのアンケート>
【1】定期借家制度の内容を知っていますか?
・内容の全部または一部を知っていた 9.7%
・内容は知らないが、定期借家制度の存在は知っていた 22.6%
・全く知らなかった 67.7%
【2】現在お住いの賃貸住宅の契約形態をお答えください。
・普通借家 89.9%
・定期借家 10.1%
【3】定期借家契約にした理由は何ですか?(②で定期借家と答えた入居者を対象に、複数回答可)
・気に入った物件が定期借家契約だったため 56.4%
・立地や広さが同程度の物件と比較して家賃が安かったため 23.8%
・礼金、敷金などの一時金が安かったため 16.8%
・その他 14.8%
【4】定期借家契約について不明点や疑問点はありますか?(②で定期借家と答えた入居者を対象に、複数回答可)
・普通借家との違いがよくわからない 46.5%
・不明点、疑問点はない 35.6%
・制度が複雑すぎる 16.8%
・長期契約なら更新料等が無くなり5年程度借りられるなら有利になる 9.9%
・契約期間満了後、再契約できるか不安 6.9%
【5】契約前に定期借家契約を検討したり
勧められたりしたことがありますか?(複雑回答可)
・定期借家契約を検討した 1.3%
・定期借家契約を勧められた 1.0%
・定期借家契約を検討しなかった 14.8%
・定期借家契約を勧められなかった 44.5%
・覚えていない 43.3%
多岐にわたるアンケート項目の中から主要なものをご紹介しましたが、結果を見てみると定期借家契約の現状や課題が浮き彫りになっていると言えるでしょう。
●宅建業者は、定期借家契約の活用を積極的には行っていない。
⇒そもそも定期借家契約の締結実績がない業者が36.8%も存在しています。
不動産業者ヘのアンケート【2】の中の、「契約締結等の手続き煩雑で、使い勝手が悪い」という点は、しばしば指摘されています。契約前に借主に対して契約書とは別に、これから締結しようとする契約が、期間満了後に契約更新がなく、契約が終了することを記載した書面を交付しなければなりません。また、契約期間が1年以上の場合、貸主は契約期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に借主に対して、契約期間満了により契約が終了する旨の通知をしなければなりません。さらに再契約をする場合にはこれらの手続きをもう1度行わなければなりません。こうした対応が義務付けられている点で、不動産業者が手続きの煩雑さを感じ、積極的な定期借家契約の導入には至っていないようです。
●普通借家契約との違いがほとんどなく、導入するメリットがない。
⇒原則として定期借家契約の契約期間満了で契約終了とはなりますが、貸主に再契約可能の意向があり、賃料などの条件で借主と合意ができれば再契約となります。また、契約期間中の借主からの中途解約も、原則は床面積200㎡未満の居住用建物について、借主の転勤・療養・親族の介護、その他やむを得ない事情により借主が建物使用することが困難となったときに中途解約が認められます。しかし実際には定期借家契約の特約として理由を問わず借主からの中途解約を認めています。結果的に実態としては普通借家契約との違いがほとんどありません。定期借家契約の再契約料と普通借家契約の更新料を比較しても、どちらもおおむね新賃料の1ヶ月分の設定が多く見受けられますので、借主の金銭的負担も変わりません。
●入居者の認知度が高まっていない。
⇒定期借家制度を全く知らない入居者が67.7%も存在し、普通借家との違いがわからない入居者が46.5%に上ることからも、入居者の認知度や浸透度が低く留まっている結果がはっきりと示されています。入居者が部屋探しの際に気に入った物件が定期借家契約の物件であったとしても、当初から再契約が可能であり、理由を問わず中途解約も認められ、費用負担も普通借家契約と変わらない、ということであれば、結果として気に入った物件がたまたま定期借家契約だった、という入居者が多く存在することも 頷けます。
住宅の有効活用という2000年の定期借家制度導入時の期待は、制度の普及が進まず、あまり結果には結びついていないのが実情のようです。特に昨今大きな社会問題となっている空き家の急増に対しては、残念ながらこの定期借家制度が空き家問題の解決に寄与しているとは言えません。定期借家制度の手続きや制度そのものの見直しなど、改善が必要な段階となっているのではないでしょうか。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
本社 運営推進部
岡野 明徳